はっきり言って、視線が痛い。
いや、気のせいだ、気のせいなのは分かっているんだが。
「うわあ、にいさま、ホントに人がいっぱいなんですね。」
「……まあ、今日は普段よりマシかな、前なんか、バスが10メートル進むのに30分なんてこともあったし。」
隣の少女、優律がバスの窓に額を押しつけあたりをきょろきょろと見回すのは、あからさまにおのぼりさんという感じで目立って仕方なく、やはり気のせいでないのかもしれない。
「へぇ、非効率なんですね。でも、そういうのも楽しいかもしれません、ずっと、にいさまと……。」
こちらを向くと頬に両手を添えて恥ずかしそうにぶんぶんと顔を振る。
最初は「ご主人様」と呼んでいたし、べつにそれでも構わないと思ったのだが、さすがに今回のように外に出ることを考えれば、さすがにその呼び方は痛い。
実際、前は交番に連れ込まれそうになったし……。
ともあれ、この子は時々、ひどく論理的だったり、人間的だったりと、ころころと思考パターンが変わる。
「やだ……、そんなに見つめないでください……。」
「あ、いや、そんなつもりじゃないって……。」
口ではそう言ったが、思い直せば、確かにこの子が気になってじっと見つめてしまったのは確かだ。
……うわ、そんなことしてたらマジで注目集めてるよ。
「とにかく、周りに迷惑かけないように気を付けてな。携帯電話も電源を切っておく。」
「でも、大丈夫ですよ、今、バスに乗っている人でペースメイカーとかを入れている人はいませんよ?」
そして、彼女は頭に付いたセンサーを軽く動かす。
「それは良かった……って、そうじゃない!」
おもわず、声を出すと、周囲の痛い視線が突き刺さる。
しかも、この子まで怯えたように目を潤ませる。
これは卑怯じゃないのか、とはどこかで思いつつ、あわててフォローしてしまう。
「ご……ごめん、そうじゃなくてな……。」
ずるい……女というものは総じてずるい……とは思うが、それに反射的にあわせてしまう自分もあきれかえる。
「そもそも、勝手に人のプライバシーをサーチするなとあれほど言っているのに……。」
そうこうしているうちにバスセンターに到着していた。
バスカードの残金を確かめるために財布の中を開いて、念のため2枚取り出す。
最後に降りるように待ってから、二人最後に降りようとして、ふと考えて、
「えっと、精算は大人一人、子供一人……」
「大人二人です!」
「……で、お願いします。」
運転手の方はおかしそうなのをこらえて対応していたが、こちらはそれほど簡単な対応ではすまなかった。
「……。」
ただでさえ、デパートの婦人服売り場は居心地が悪いというのに……。
「だから、ごめんって。」
「誠意が全く感じられません。」
「誠意って言われてもな……。」
確かに、誠意は無いかもしれない。
だが、あまり、頭を下げすると、「じゃ、お詫びに……。」など言われて、服などねだられてしまうのではと思うと……。
ちらと値札を見ると、これといって特徴の無いハンカチが千円で置いてある、服の類など、数万円単位だ。
「どこの誰が買うんだよ、こんな値段で……。」
「にいさま、買ってくれないんですか?」
こっちがしまったと思う前に優律は満面の笑みですり寄る。
「そんな金あるように見えるかよ……。」
「全然見えません。壊れかけのAV機器を買い換えようとパンフを集めて、結局ウィンドウショッピングだけで帰ってくるあたりとか。」
あの必殺の前屈み見上げポーズ終始にこやかに楽しげに残酷な現実をわざわざ述べてくれる。
「鬼か……。」
さっきの仕返しだろうが、いくらなんでも言い過ぎだと思う。
で、場面転換。
「まあ、高くなくて、いいけど……。」
以前、気に入りの喫茶店があると、話していたのを覚えていたらしい。
優律はゆっくり水を口に含んで口の中を湿らせると、僕の言葉に首を傾げ、
「そうですか?でも、紅茶一杯で500円以上するじゃないですか?」
「ああ、言われてみれば、でも、こういう店は質もそうだけど、落ち着ける雰囲気とか、そういうものも含んでの値段だからな。」
そばを歩くウェイトレスさんの脚をなg
「に・い・さ・ま……。」
「……っ!」
めいいっぱい、腕に爪を食い込ませてつねってくる。
「ふ〜ん、そゆ目的ですか……。(ジト目)」
十分、爪痕を残したところで
「べつにいいだろうが、べつに……」
いかがわしい店に行くだけではないんだし……と言いかけてやめる。
彼女が実際にどれだけ「起動してから」経ったかはともかく、外見同様、心もまだ幼い。
僕もさすがにロリペドではないので(断じて違う、誰がなんと言おうと)、そんなセクハラをする気にはならない。
「よくないです、デートなんだから、私だけ見てください!」
……こういう時、周りは僕らをどう思うんだろう?
べつに優律の言葉が嫌じゃない、この時の周囲の視線が嫌なんだ……。
以前、このせいでいたたまれず、優律を引っ張って外に出ようとしたら、誘拐と勘違いされて……、警察というのが如何にいい加減であるかをみっちり学ぶことになった。
幸い、客の入りが少ない時間帯で、店内にいたのは上品そうな老夫婦だけで何やら微笑ましそうに見るだけだったし、さすがにプロのウェイトレスさん達はそれを気にする様子を見せず、コーヒーとケーキを持ってきた。
ウェイトレスさんに礼を言うと、珍しげに優律が持っているコーヒーカップを眺めた。
「……本当に、コーヒーで良かったのか、べつに服に比べりゃ安いんだから、今からでもイチゴジュースとかに変えてもいいんだぞ。」
わざわざ、こんなことを言ってしまったのは、心配と言うより、さっきつねられた仕返しにからかいたかったからだと思う。
「子供扱いしないでください!」
むっとした顔で、一気にコーヒーをあおろうとして……、
「……!」
外見相応に幼く設定された舌にはコーヒーの味は異物に感じたのかもしれない。
自分もコーヒーをゆっくり飲みながら、ついついその様子を頬をゆるめて眺めていると、ようやく落ち着いた優律が恨めしげに見返してくる。
「もう、ひどいです!」
頬をふくらませて、窓の外を見る。デパートの最上階からの景色はビルだらけの街中でも遠くまで見える。
「だってなぁ、ブラックを一気飲みなんて、普通しないぞ。少しずつ、味がきついとか思ったら、ミルクや砂糖で飲みやすくする。」
そう言って、実際に自分のコーヒーに入れてみせる。
普段はミルクなんて入れないのだが、貧乏性故に目の前にあるとついもったいないと思ってしまう。
優律が、無理してブラックで飲まないように気を使う意味もあるが、優律はそれに気付いてしまったのか、やはり、不満げな顔をして、ブルーベリーのタルトを小さくフォークで切っていく。
なんとなく、間が持たなくなって、窓の外を見る。
朝、出がけには曇っていた空はいつの間にか晴れている。
「あ、おいしい……。」
優律の感嘆の声が雰囲気を和らげた。
「こういうの作り方が分かれば、出来るんじゃないのか?」
「調べると……、怒るじゃないですか……。」
アクセサリの振りをしたセンサーを微かに動かして、目を潤ませながらこっちを見る。
「……ま、今、調べるのは反則だな、でも、ネットで調べたりならな、何なら、本屋によるか?」
「買ってくれるんですか?」
さっきまで不機嫌だったのが、期待しながらも遠慮するように目を潤ませてこちらを見る。
「まあ、本ってのも結構値段するもんだけどさ……、優律なら無駄にはならないだろ。」 素直に嬉しそうにして、喜ぶ様からは先程までむくれていたとは想像も出来ない。
つい、その勢いであわててタルトを平らげようと、大きく切ったのを見ておもわず苦笑する。
「いや、ここでゆっくりしていいんだよ。」
嬉しそうだった優律の顔を一瞬にしてキッと変わる。
「ここにずっといたら、にいさま、その分、ウェイトレスさんの脚を見るでしょ……。」
……つ〜か、この変化の激しさは何?
「オチとして、山ほど本を買わされるハメになった訳で……。」
「にいさま、自分でも無理矢理オチを付ようとしていると分かっているでしょ?」
「頼む、いわんでくれ……。て〜か、山ほど荷物はこんでいるのは事実だ。」
畑仕事で疲れたみたいに腰を曲げて荷物を降ろす。
「べつに持ってあげてもよかったんですよ。」
「それは、プライドが許さないからいい。」
「でも、体力無いですよね。」
……ちなみにこれは悪意がある訳ではなく、単に分析結果を告げているだけである。
だから、なお痛い。
「にいさま、ちょっと体調が悪いみたいですけど?」
「なんでもないから……。」
自分で書いていて、ひとんちのホームビデオを見せられるようなそんな気分になりました……。
うあ、殴り殺されても文句言えね〜。(いや、それはやめてください頼むから。)
ホントに書いていてオチが付かなくなってしまったというか……。
てか、1つ学びました。
ちゃんとオチを考えてからSS書きましょう。
……ダメじゃん、自分。
最終更新日2003/3/12