「あ、やば……。」

 ふと、薬を飲み忘れたのを思い出し、入ったばかりの布団から起き出す。

 そばの小さな棚から錠剤を取り出し口に含んで……。

 「あ……。」

 冷蔵庫の中にあるのは、実家から送ってきた野菜ジュース、水筒の中にはインスタントのコーヒーしかない。

 「ごしゅじんさま?」

 すでに寝ていたはずの(どこで寝ていたかについてのお問い合わせに対してはお答えできかねます)優律が眼鏡をはずしたまま、 眠そうに目をこすり、僕の方へと寄ってくる。

 優律……、P.O.T.……ポットと呼称される女性型アンドロイドの一人。

 自分に彼女が預けられた理由はわからない。

 先んじて研究を担当していた技術者によれば、「相性」ということだが、それで納得できるはずもない。

 ただ、その愛らしい少女の姿と健気な(ただし、健気すぎて暴走する時あり)様に彼女を突き返すこと出来ず、 一般常識からすれば非常に不健全な疑似同棲状態を受け入れてしまった。

 「あ、お茶か、白湯かを探したんだけど、薬を飲もうと思ってね、水道水ですませるしかないかと……。」

 何故、アンドロイドが寝ぼけ眼なのか分からないが、とにかく実際にぼーっとした様子で近づいてくる彼女につい魅入ってしまう。

 「白湯なら、ありますよ。作り置きが……。」

 相変わらず、ぼーっとしたまま、彼女は僕のすぐ傍に立つ。

 「え、いつのまに?ありがとう助かるよ。」

 が、次の瞬間、固まってしまった。凍り付いたんじゃなくて、まさに固まった。

 優律は背伸びして唇を強く重ねて、体内で生成されいつの間にか冷えた蒸留水をこちらの口に流し込む。

 自分はパニックに陥るかと思いきや、意外に冷静に零さぬように気をつけて、それを薬ごと飲み込む。

 「じゃ、お休みなさい。」

 そして、彼女は大してそれを気にする様子もなく、また眠そうに目をこすって、布団に戻っていく。

 それを見送ってから、自分も布団に入り、しばらくたってからようやく何をしてしまったかに気付いて、唇に触れた。

公開2003/3/13 設定変更による修正9/16